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記事サマリー
この記事を読んでわかること
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- 両社の成長構造とAI投資・収益化の違い
こんな方へオススメの記事
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- デジタル広告の運用担当者、マーケティング責任者、広告予算配分を検討している事業責任者の方
この記事を実践するための準備
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- Google広告・Meta広告の運用データと、自社のコンバージョン計測体制を確認しておくこと
目次
Google – $100B達成、チャネル別成長とAI収益化
Googleは2025年第3四半期、初めて四半期売上高が$100Bを超え、$102.3B(前年比+16%)を達成しました。Sundar Pichai CEOは「全ての主要事業で二桁成長を達成した初めての$100B四半期」と述べています。
チャネル別に見ると、各事業の明暗が見えてきます。Google Search & otherは$56.6Bで前年比+14.6%成長。検索広告の成長率が14.6%というのは驚異的です。成熟市場と言われる検索広告で二桁成長を維持できているのは、アルゴリズム改善によるコンバージョン精度の向上が効いていると考えられます。
YouTube adsは$10.3Bで+15.3%成長。YouTube Premiumの加入者が増えているため、広告を見ないユーザーが増えて広告売上が減るのではないかという懸念もありましたが、結果は逆でした。プレミアム会員が増えても、YouTube全体のリーチが広がり、薄く配信しても成長率が高い状態を維持しています。見る人は見るし、広告収益モデルとしての構造は極めて強靭です。
一方、**Google Network(GDN含む)**は$7.4Bで-1.3%と唯一のマイナス成長。ただし、この数字は予想よりも健闘しています。サードパーティネットワーク広告は構造的な衰退トレンドにあり、もっと大きく下がると思っていましたが、たった-1.3%で済んでいます。Googleがネットワーク品質を保ちながらソフトランディングさせている証拠でしょう。
そして最も高成長なのがGoogle Cloudで、$15.2B、前年比+34%。この成長を牽引しているのがAIインフラとGenerative AI Solutionsです。Gemini APIは現在、顧客による直接利用だけで毎分7億トークンを処理しており、Gemini Appの月間アクティブユーザーは6.5億人を超えています。GoogleはAIを既にマネタイズできている点で、後述するMetaとの大きな差別化要因となっています。
Google Cloudのバックログは$155Bに達しており、企業の本格的なAI導入需要がこれから顕在化していくことを示唆しています。Googleは2025年通年の設備投資(CapEx)を$91-93Bに引き上げましたが、これは需要に対応するための計画的な投資です。投資と回収のバランスを取りながら、AI時代のインフラプロバイダーとしての地位を固めています。
参照:Alphabet Announces Third Quarter 2025 Results
Meta – 26%成長の広告モデルと積極投資
Metaは2025年第3四半期、売上高$51.24B(前年比+26%)を達成しました。Googleの+16%を大きく上回る成長率です。Mark Zuckerberg CEOは「ビジネスとコミュニティの両方にとって好調な四半期だった」と述べています。
この26%成長の中身を分解すると、広告モデルの進化が見えてきます。Metaの広告売上は$50.08Bで、総売上の約98%を占めています。そして広告成長を支えているのがインプレッション数+14% × **広告単価+10%**という掛け算構造です。
この構造が持続可能なのは、アルゴリズム改善によるコンバージョン率(CVR)向上が起点となっているからです。広告のCVRが上がれば、広告主は成果が出るため、CPCが上がっても投資を続けます。そして広告主が増えれば、Metaは配信量(インプレッション在庫)も増やしていく。つまり、CVR向上→CPC上昇許容→在庫拡大という好循環が回っています。
デイリーアクティブユーザー(DAP)は35.4億人で前年比+8%成長。ユーザー基盤を拡大しながら、一人あたりの広告価値も高めていく両輪戦略が機能しています。
ただし、決算発表後の株価は-9%と急落しました。理由は大きく2つあります。
1つ目は税制影響です。トランプ政権の「One Big Beautiful Bill Act」実施により、$15.93Bの一時的な非キャッシュ課税が発生しました。これにより報告ベースの純利益は$2.7B(-83%)、EPSは$1.05(-83%)と大幅減益に見えます。ただし、この税制影響を除いた調整後の数字を見ると、純利益$18.64B、EPS $7.25と好調です。実効税率も14%に低下し、今後の米国連邦税の支払いは大幅に減る見込みです。
2つ目は2026年への投資姿勢です。MetaのCFOは「2026年のCapExはドルベースで2025年より”notably larger”(著しく大きく)増加し、費用も成長率が”significantly faster”(大幅に速く)なる」と警告しました。2025年第3四半期だけで設備投資は$19.37Bに達し、通年見込みは$70-72B(前回予想の下限を引き上げ)。そして2026年はさらに増えるというのです。
この投資の大半はAIインフラです。Zuckerbergは「我々のコンピュート需要は予想を大きく上回って拡大し続けている」と述べ、自社データセンター建設とサードパーティクラウド契約の両方に”aggressively”(積極的に)投資すると明言しています。
一方で、Reality Labsは第3四半期だけで$4.4Bの営業損失を計上しています。売上は$470Mに留まり、VR/ARハードウェア事業の収益化は依然として見えていません。
つまり、Metaは広告事業で高成長を続けながら、その収益を惜しみなくAIとReality Labsに投資しているという構図です。投資先行で短期利益が圧迫される懸念が、株価下落につながったと見られます。
参照:Meta Reports Third Quarter 2025 Results
2社の対比 – 投資姿勢と収益化スピードの差
GoogleとMetaの2025年第3四半期決算を並べると、デジタル広告市場を二分する両社の戦略の違いが鮮明に見えてきます。
成長率では、Metaの+26%がGoogleの+16%を上回っています。広告事業に集中するMetaの方が、売上成長のスピードは速い。一方、Googleは検索、YouTube、Cloud、デバイスと事業が分散しているため、全体の成長率はMetaより低くなります。
しかし決定的な差は、AI投資の収益化スピードにあります。
GoogleはAI関連の売上を既に計上できています。Google Cloudが前年比+34%成長し、$15.2Bに達しているのは、企業向けのAIインフラとGenerative AI Solutionsが実際に販売されている証拠です。Gemini APIは毎分7億トークンを処理し、Gemini Appのユーザーは6.5億人。CloudのバックログはAI需要を反映して$155Bまで積み上がっています。Googleは投資と回収のバランスを取りながら、計画的にAI事業を育てています。
一方、MetaのAI投資は完全に先行投資のフェーズです。2025年のCapExは$70-72B、2026年はさらに「著しく大きく」増える見込み。費用も「大幅に速く」成長すると警告されています。Zuckerbergが「我々のコンピュート需要は予想を超えて拡大している」と述べる通り、Metaは”aggressively”(積極的に)投資を加速させています。
しかしMetaの場合、このAI投資がどう収益化されるのか、明確なシナリオが見えていません。広告アルゴリズムの改善には貢献しているでしょうが、Google Cloudのような独立した売上にはなっていません。Reality Labsも第3四半期で$4.4Bの赤字を計上し、ハードウェア事業の収益化は遠い状況です。
株式市場はこの差を敏感に反映しています。Googleの決算発表後、株価は安定していました。一方、Metaは好調な広告売上にもかかわらず株価が-9%急落。投資家は「投資規模に見合う収益が見えない」ことを警戒しています。
CapExの規模感も対照的です。GoogleのCapExは通年$91-93B。Metaは$70-72Bですが、Metaの売上規模(四半期$51B)はGoogleの売上規模(四半期$102B)の約半分です。つまり、売上対比で見ると、Metaの方が遥かに高い投資比率で資金を投入しているのです。
ただし、両社に共通しているのは、広告アルゴリズムの改善がコア事業を支えているという点です。GoogleもMetaも、AIによるコンバージョン精度向上が広告主の成果を高め、それがCPC上昇とインプレッション拡大の好循環を生んでいます。この広告エンジンが強固だからこそ、両社とも大規模なAI投資を継続できているのです。
結論として、Googleは「稼ぎながら投資する」モデル、Metaは「大胆に先行投資する」モデルと言えます。どちらが正解かは、今後数年のAI市場の展開次第でしょう。
計測問題と協業の可能性
デジタル広告業界が直面している最大の課題の一つが、計測問題です。特にAppleのiOSプライバシー強化により、広告のコンバージョン計測精度が低下し、広告主は正確な効果測定が難しくなっています。
この問題に対して、GoogleとMetaは表向きは競合関係にありますが、実は協業の動きが見え始めています。
Metaは既に、Google Analyticsとの連携を強化する方向に舵を切っています。Meta広告の費用データをGoogle Analytics4にアップロードできる機能を提供し、広告主が統合的にデータを分析できる環境を整えつつあります。さらに、GoogleのGeminiを活用して広告クリエイティブの精度を高める取り組みも進んでいると見られます。
つまり、MetaはGoogleのツールやAI技術を積極的に取り込むことで、計測問題を緩和し、広告主体験を向上させようとしているのです。
**なぜ両社が協力する必要があるのか。**それは、計測精度が落ちれば、広告主の投資意欲が減退し、結果的に両社の広告収益が減るからです。iOSという外部要因で市場全体が縮小するリスクを避けるため、データ連携によって「正しく計測できる環境」を共同で作る方が、両社にとって合理的なのです。
そして両社にとって重要なのは、アルゴリズム改善によるコンバージョン率(CVR)の向上です。計測問題があっても、実際に広告から成果が出れば、広告主はCPCが上がっても投資を続けます。GoogleもMetaも、AIを使ったアルゴリズム改善でCVRを高め続けており、これが「単価上昇を許容できる市場環境」を作り出しています。
さらに、CVRが向上すれば、広告主は予算を増やし、プラットフォーム側もインプレッション在庫(配信量)を拡大できます。つまり、CVR向上→CPC上昇許容→インベントリ拡大という好循環が回るのです。
今後、GoogleとMetaは表面的には競合しながらも、裏側ではデータ連携やAI技術の相互活用を進めていくでしょう。両社が共にアルゴリズムを磨き、広告主の成果を最大化することで、デジタル広告市場全体のパイを拡大していく。計測問題という共通の敵に対して、2大プラットフォームが協調する構図が見えてきています。
デジタル広告の未来は、競争と協調が同時に進む、複雑な局面に入っています。

Web業界にて20年以上、大手から中堅代理店の顧問を請負。デジタルマーケティングを中心に、主に広告関係の教育や研修、コンペの相談に乗っています。またSEMのお役立ちツールもスクラッチで開発。現在も電通グループの顧問、Shirofuneのアルゴリズム作成補助など担当しており、年間100名以上を教育。皆さまに心から信頼されるパートナーであり続けるために日々研鑽しております。また、世界的権威のある One Voice Awards USA 2025 にも日本人としてノミネートされ、世界的なナレーターとしても活躍中です。





