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記事サマリー
この記事を読んでわかること
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- アメリカの広告支出構造の劇的変化と日本への影響
こんな方へオススメの記事
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- 広告代理店経営者・マネージャー層の方
この記事を実践するための準備
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- 自社の顧客ポートフォリオと競合分析
目次
アメリカ市場のプラットフォーム別インハウス化の現実 – MetaとGoogleの複雑性の違い
参照:AIがメディアプランニングと購入を変革する中、米国の広告支出はホールドコ経由よりもブランドから直接支払われる割合が増加
まず、アメリカの広告支出構造の劇的な変化を見てみましょう。2019年から2024年にかけて、大手代理店(Big 6 Agency HoldCo)のシェアは44.5%から28.3%へと大幅に減少しました。一方で、広告主の直接運用(Advertiser Direct)は9.8%から30.3%へと3倍に増加し、ついに大手代理店のシェアを上回りました。興味深いのは、独立系代理店(Independent Agency)のシェアが45.7%から41.4%と比較的安定していることです。
アメリカでの変化を詳しく見ると、「中小企業がMetaなどを直接利用する傾向」とありますが、実はGoogleではまだこの流れは限定的です。これはプラットフォームの複雑性の違いに起因しています。
Metaは既にASC(Advantage+ Shopping Campaigns)などの自動化ツールが高度に発達しており、キャンペーン構造もシンプルで直感的です。中小企業でも比較的簡単にインハウス運用に移行できる環境が整っています。
一方、GoogleのAI能力は決して劣っているわけではありません。実際、テキスト広告の自動生成やバナーの自動生成機能は非常に優れており、サイバーエージェントがテキスト広告の自動生成サービスを廃止したのも、Googleの自動生成能力が向上したからに他なりません。
しかし、Googleの課題は複雑性にあります。P-MAX、デマンジェン、検索広告向けAI MAXなど多様なキャンペーンタイプや機能が存在し、それらの最適なアロケーション管理は依然として高度な専門知識を要求します。
これは税理士の存在理由と似ています。もし税制が「年収の20%一律課税」というシンプルなものなら、誰も税理士を雇わないでしょう。しかし源泉徴収、所得税、住民税、社会保険料など複雑な制度が絡み合うからこそ、専門家のニーズが生まれます。Googleの広告運用も同様で、この複雑性こそが代理店の存在価値を支えているのが現状です。
日本の代理店業界の生存戦略 – 大手vs中小の明暗
一般的に、アメリカで起こった変化は2〜3年後に日本に波及する傾向があります。つまり、2022年頃のアメリカの状況が、まさに現在の日本の状況と言えるでしょう。
アメリカの変化は、日本の代理店業界にも既に影響を与え始めています。サイバーエージェントが2025年第3四半期決算で5年ぶりの減収減益を記録したのは、まさに大型顧客のデジタルマーケティング内製化が原因でした。また、博報堂DYホールディングスがオプトを270億円でTOB・完全子会社化したのも、デジタルマーケティング環境の厳しさを物語っています。
しかし、アメリカのデータが示すように、独立系代理店のシェアは比較的安定しています。これは日本の中小エージェンシーにとって希望的な材料です。
大手代理店が苦戦する理由は構造的な問題にあります。分業制により、顧客は1つの案件で3〜4回も担当者が変わることが珍しくありません。さらに代理店業界の平均勤続年数は1〜1.5年と短く、「新卒を連れてきて体制強化しました」と言いながら、実際には経験不足の担当者が次々と配置されます。これでは長期的な信頄関係など築けるはずがありません。
一方、中小エージェンシーには明確な生存戦略があります。顧客数を絞り込み、一社一社に深く入り込むことです。レスポンスの速さと顧客への親身な対応は、図体の大きな組織では真似できない強みです。大手が分業制で効率化を図る中、中小は担当者が一気通貫でサポートできます。
この流れは止まりません。だからこそ、中小エージェンシーは自分たちの強みを活かし、顧客との密接な関係性を武器に戦うべきなのです。
参照:サイバーエージェント、広告事業が減収減益の危機 正念場のAI革命
参照:博報堂DYHD、オプトの親会社デジタルHDをTOBで完全子会社化へ
この流れを生み出したのは代理店自身
皮肉なことに、この流れを生み出したのは代理店自身です。
平均勤続年数1〜1.5年で人材を使い捨てにし、オペレーションスキルだけを身につけた人材を市場に大量放出してしまいました。戦略的思考や深い洞察を必要とする業務はインハウスで社内人材が担当するか、新たに採用が進んで重宝されています。しかし、広告運用のオペレーションができる人材は市場に山のようにいるのが現状です。
企業からすれば、そうした人材を直接雇用して代理店を外し、インハウス運用に切り替えることで20%の代理店手数料がなくなるわけですから、極めて合理的な判断と言えるでしょう。
この流れは今後も加速していくはずです。本当に顧客と深く入り込み、真のパートナーとして伴走できない代理店は、どんどん淘汰されていくでしょう。

Web業界にて20年以上、大手から中堅代理店の顧問を請負。デジタルマーケティングを中心に、主に広告関係の教育や研修、コンペの相談に乗っています。またSEMのお役立ちツールもスクラッチで開発。現在も電通グループの顧問、Shirofuneのアルゴリズム作成補助など担当しており、年間100名以上を教育。皆さまに心から信頼されるパートナーであり続けるために日々研鑽しております。また、世界的権威のある One Voice Awards USA 2025 にも日本人としてノミネートされ、世界的なナレーターとしても活躍中です。